ISOの取り組み

 

お客さまと心の通うISO認定取得

2001年2月21日「ISOセミナー」での事例報告

株式会社ビッドシステム

代表取締役 谷 径史

 ただいまご紹介にあずかりました株式会社ビッドシステムの谷と申します。

 今回は、私たちのISO認定取得プロジェクトの報告の機会を与えて頂きまして、群馬中央総合研究所、日本海事検定協会をはじめとする主催者の方々に感謝いたします。

 お集まりの各社の経営者、並びに責任的地位にあられる諸先輩の皆様に対しましては、誠に僭越ではありますが、皆様の何らかのお役にたてればと思いながら、事例報告させていただきたいと思います。

 

【当社の概要】

では最初に、私たちの会社について、簡単に紹介させて頂きます。

 私たちの会社は、コンピュータのソフトウェアを開発、販売する業務を行っております。

 設立が、平成9年の2月ですので、ようやく満4年が経過した段階です。

 社員数は、私を除きますと7名で、そのうち2名はパート社員です。20代の社員が3名、30代が3名といった比較的若い会社であります。

 もともとが、別の会社の1つのチームが、そのまま独立して自分たち会社を設立したという経緯がありますので、会社設立から4年といっても、中心的な社員とは、もう7年からそれ以上、同じチームで仕事をおこなってきております。

 こうした会社の規模や性格と関連し、組織体制も特になく、皆で働き、決算で利益が出たら人数で等分して分配するといった経営をおこなって参りました。

 

ISO導入の経緯

ISO導入のきっかけになりましたのは、昨年2月に、有限会社から株式会社に改組したことでありました。

 株式会社への改組の前年の暮れに、私たちは会議をおこない、これからの会社の方向を話合いました。「どうせ株式会社にするのだから、きちんとした会社にしたい。これまでお世話になったお客さまに、恩返しのできる会社にしたい、…」といったことを話合っている中で、「漠然とした希望や抽象的標題をかかげるのではなく、明確な数値目標を立てるべきだ。」ということになり、一人の社員から、「ISOを取りたい。」と提案がなされました。

 私は、恥ずかしいことにその日まで、ISOを会社の運営方針として具体的なテーマに考えたことはありませんでした。そのため、その会議の席上では、私は「ISOと言ったって、そんなに簡単ではないぞ。いくらかかると思う。単純に考えただけでも500万はいくぞ。一人あたり100万だ。それだけ給料が減るということだぞ。」などと意見を述べたものでした。しかし、その会議では、参加した全員が、「来年はISOプロジェクトをやるべきだ」ということになり、遅ればせながら、社長である私が、覚悟を決めなければならないという事態になった次第であります。

 

 私の会社の社員がISOの導入を提案した理由は、以下のようなものでした。

  1. これまでは、お客様のために、できる限りの努力をしてきたつもりであるが、その点では認めてもらってはいても、かえって迷惑をかけることが多かったのではないか。 まだまだ品質が低い。もっと品質を上げないと迷惑をかけ続けることになる。
  2. たとえ株式会社になったにせよ、会社としての品質管理のシステムを作りあげないと、何もかわらない。
  3. ISOのことはまだよくわからないが、少し本を読んでみたところ、私たちの会社でも使えるかもしれない。やってみる価値はありそうだ。

 このような経緯で、私たちは、ISOの取り組みを開始することになりました。

 私たちは、実際のところ、ISOの認定取得をしたところで、営業的には何ら直接的なメリットはありませんでした。当然のことながら海外の顧客はいませんし、これまでお世話になってきたお客様方々も、私たちにISOの取得を薦めることはありませんでしたし、ISOの取得が取引の前提になるということもありませんでした。

 私たちにとってのISOとは、あくまでも私たちの会社を次の段階へ発展させるための道具としての位置づけであり、それを通して社員自身が一段と成長するための一つのステップとしてありました。

 

ISO認定プロジェクトの準備

1999年12月に、ISO認定取得を決定したものの、私は大変不安でした。「お金はいくらかかるだろう。果たして品質管理などには全く素人の自分たちにISOなどどいう国際規格がとれるがろうか。でもやるとなった以上は何としてもやらないと…。」

 そこでまず、最初の3ヶ月間を準備調査期間に定めました。この期間で、

  1. 財政的に可能かどうか判断するため税理士の指導をうけ、銀行にも融資が可能かどうか打診しました。(融資は可能のようでしたが、結局は申し入れはしませんでした。)
  2. またすでにISO認定取得している会社に勤めている社員の父親の紹介を受け、その会社のISOプロジェクトの責任者に話を伺いに行ったり、取引先の担当責任者に話を聞いたりしました。
  3. 更に、適切なコンサルタントを選定する作業も行いました。この中で、幸いにして、株式会社群馬中央総合研究所と社団法人日本海事検定協会と接触することになりました。

 

コンサルタントの指導

 次にコンサルタントの指導を受けるにあたって、私たちが行ったことをご報告いたします。

 私たちには、かつてOJT等で、コンサルタントの指導を受けた経験から、「コンサルタントをあまりあてにしてはならない」という考えが深く染みついていましたので、ISOでコンサルを受けるに際しても、かなり慎重でした。

 それでもコンサルが必要だと結論付けた理由は、「私たちはISOを参考に自分たちで考えて品質システムを作りあげるが、それがISO的に見てどうなのか、まちがった方向に進んではいないか、偏ったシステムになってはいないか、等々を判断してもらうには、ISOに詳しいコンサルのアドバイスを受けるのが、最も効率がよいだろう」ということにありました。

 ですから私たちは、コンサルの指導のままに作業を進めることもなく、その意味では、コンサルの先生には大変失礼なことの連続ではなかったかと思っております。

 私たちは、コンサルの前に会議を行い、次回のコンサルの議論の進め方、獲得目標を協議し、参加者が一致してコンサルに臨みました。またコンサルが終わると、その会場で引き続き総括会議を行い、コンサルの中で参考になった点、あるいは逆にあまり役に立たなかった点等を分析・整理し、次回までの作業分担、スケジュール確認等を行いました。どの組織のISOプロジェクトでも同様だと思いますが、私たちもコンサルを招いての研修と研修の間の休日に出社して、手順書の討議を行ったこともよくありましたし、トライアル開始にあたっては、平日全日を研修にあて、社員のみで別会場に移動し、すべての手順書の見直しをおこなったこともありました。こうすることによって焦点が定まり、同じ問題意識で、コンサルタントを招いた研修に臨むことができました。

 私たちは、コンサルタントの活用という意味では、比較的効率的にすすめられたのではないかと考えております。これまで「文書化コース」「内部監査員養成コース」を除くと、コンサルの回数は4回でした。

 

ISOの位置づけ

 次に、ISO自体の位置づけについてですが、私たちにとってISOとは、認定取得が目的ではありませんでしたから、あまり急ぎませんでした。

 当初は、2000年の年内に取得できるかも知れないという思いもありましたが、進めていくうちに、認定取得自体より、その過程での実際の品質管理の改善が重要ではないかということになっていきました。要するにISOを「規格要求事項」としてではなく、「ガイドライン」として捉え、自分たちで消化できた分だけ取り入れていき、何よりも私たちの会社の品質システムの質が高まり、それが製品に反映し、お客様に質のよいソフトウェアを提供できるようになれば、それでよかった訳です。もちろんこれは、ISOの認定取得と矛盾するものではないことはいうまでもありません。

 実際、私たちの会社では、トライアルを始めたのが昨年の9月であり、本審査の予定を6月頃に設定しておりますので、9ヶ月間をトライアル期間にしております。

 

ISOトライアルでの具体的ないくつかの取り組み

 次に、私たちの会社で、ISOに沿った品質管理システムを運用していく上で、懸案となった事項について報告いたします。

(1)文書の管理

 まず、文書の管理についてです。

ISOでは、システム文書をはじめ、各種の記録のフォームの管理など、いろいろな文書の管理が必要になりました。

 私たちは、紙に書いた原本とイントラネット上に置いたコピーという組み合わせを採用しています。システム文書自体も、かなりスリムにしました。原本は1つのみとしました。

各自は、システム文書を紙としては持っていません。参照は、パソコンを利用しての画面からの参照です。一時的に印刷することがあっても、参照が目的で所有が目的ではありませんので、すぐ廃棄することになっています。

 紙を原本にしたのは、やはり管理の容易さからです。検印を押したものが原本という管理方法は、私たちにとっては採用しやすい方式でした。電子文書にすると認証、権限等で、よけいシステムが複雑になってしまうのでこれは採用していません。同時に原本と一致した参照用のコピーをイントラネット上に置くことによって、各自のパソコンから常に最新版に管理されたシステム文書、及び記録のフォームが容易に参照出来るようにしました。

 文書番号の発行手順もシステム化しました。こうしたことによって、誰の手を煩わせることなく、文書が自動的に管理されるようになりました。いつでも文書の発行状況がチェックできるようになりました。

 

(2)品質記録の管理

 次に品質記録の管理についてです。

 実際、品質記録の管理では、これまでとは異なり、作業量が増えました。しかし、この作業は、もともと必要だった作業ではなかったかと思っています。契約段階で、お客様と契約内容の確認を行うのは当然ですし、途中に仕様が変更されれば文書で確認するのは当然です。まだテスト中であったり、不具合を含んでいるソフトウェアを識別し、出荷しないようにするのも当然ですし、出荷後の保管管理を行って、万一納品後問題が発生した場合でも、短時間に適切な対応ができるようにするのも当然です。コンピュータのソフトウェアは、たとえ自分が開発したものであっても、3ヶ月もたてば他人が開発したものと同様に、頭の中には残っていませんので、その時に頼りになるのが開発時の品質記録です。ですから、私たちの会社にとっては、品質記録の管理で要求されるすべての事柄が、会社自体が成長していくための糧のようなものです。

 とはいっても、どうしても開発に係わる者としては、今日明日のプログラムの正常な動作の方が、記録の作成より優先されることがあるのも事実です。お客様自身がそれを要求されることもあります。

 そこで、品質記録の形式的チェック(要するにあるべき記録自体があるかないか、承認印があるかないか等)を自動化し、開発に携わらないパートの方にでも容易にチェックできる方法を検討しております。これによって、いわば「内部監査」を日常的に行うような管理体制を作りあげていくたいと考えております。

 

(3)不適合・クレーム

 3番目に不適合・クレームの捉え方についてです。私たちは、不適合とはテスト工程で発見された不具合を意味し、クレームとは納品後顧客によって発見された不具合を意味するものと定義しました。

 私たちは、不適合・クレームの記録をたくさん集め分析し、その抜本的対策をとる手順に期待しています。

 不適合やクレームが隠れてしまっては改善の糸口を失ってしまいます。

 現状として、まだまだ不適合・クレームを記録として残し、分析し解決していくサイクルができていません。

 私たちは、この不適合・クレームに焦点をあてる観点から本年度の品質目標を「顧客からのクレームの20%減」と定めましたが、むしろ「障害連絡票の20%増」を目標にした方が賢明だったかも知れません。

 改善サイクルが機能するようになれば、確実に品質は良くなると思っています。

 

成果と反省

 報告の最後に、私たちのISO認定取得プロジェクトの成果をまとめて見たいと思います。

  1. 品質システムという考え方が定着し、よい品質のソフトウェアを提供することがお客様の利益につながるのだという考えが定着してきました。
  2. 契約内容の確認をはじめとするISOの要求事項に沿って業務を進めることが、お客様との信頼関係を高め、互いに成長し、末永くお付き合いしていけることにつながるという考え方が定着してきました。私たちの場合、計測器メーカーのお客様ともお付き合いがありましたので、ISOに対する取り組みは、お客様に理解していただけており、時によっては励まされ、また時によってはISOの観点からご指導をうけることもありました。そのため、私たちの取り組みは、取引先のお客様と一緒になって進めてこれたように思います。 実際、これまででも、開発体制をISOに沿った方式でトライアルしてくる中で、お客様との認識の食い違いも解消され、お互いの品質に対する共通の認識が生まれることによって、信頼関係が深まりました。これまでは、どちらかとういと「とにかく一生懸命にやる」ことくらいしか評価されることがなかったとすれば、大きな前進だと言えます。
  3. まだまだ途中とはいえ、きちんと管理された工程を意識的に経ることにより、品質自体も改善されてきています。以前なら見過ごしてしまうか、個人の裁量に期待するしかなかった問題も、その都度改善されるようになりました。
  4. いうまでもなく、社員の意識も高まり、成長しました。

  こうした成果を踏まえ、私たちはお客さまと心の通うISOを目指していきたいと考えています。

 

反面、失敗した点について。これは成果同様に、あくまでも私たちの場合のことですが、

  1. コンサルタントの指導をもっと効果的に活用できたのではないか。要するに自分たちの会社のことをコンサルタントに理解してもらおうと思っても、これはなかなかむずかしいものだと思います。これはコンサルタントの責任ではありません。そもそも本質的にむずかしい問題なわけです。私たちの場合、コンサルタントの先生との事前の打ち合わせをきちんとおこなって、私たちがコンサルタントの指導に求めているものをもっと明確にしていたら、一層成果が大きかったと思います。具体的にいうと、私たちの会社に沿ったISO構築の指導・援助というよりは、もっと客観的な審査的な不適合の指摘のような方式の方が有効だったようです。
  2. 次に、業務の配置についての配慮です。ISOのトライアルが開始されるに伴い、社員の作業量は増加しました。私は社長として、その内容を顧客によく説明し、社員の業務上の負担を軽減させるための努力をもっとすべきでした。これが不足した分だけ、社員の負担が増えました。
  3. もう一つは、ISO自体の自分自身の理解の問題です。ISOでは経営者の責任を強調しており、強力なリーダーシップを要求しています。それに対してどこまでできただろうかという点です。当社の場合、むしろ社員の方が進んでしまっていたかも知れません。

 

 私たちの場合、ISOはひとつの通過点です。

 今年は、ISOの認定取得を方針どおり実現するとともに、次のテーマに進みたいと考えています。

 

  1. 社員一人一人の技術的能力の画期的な向上。
  2. 5Sプロジェクト等への取り組み

 

これらのテーマの実現にとっても、ISOは強力な武器になると確信しております。

ご静聴、ありがとうございました。