目的から考える
当社におけるISOの現状・課題と対応策
2012/09/12 群馬ISO機構ISO研究部会での報告
株式会社ビッドシステム
代表取締役 谷 径史
●当社開発者の一般的傾向
たとえばお客様のところで何らかの問題が発生したとします。
この連絡を受けるとまず再現テストをしてみます。そしてプログラムの正常動作を確認します。するとここでお客様にたいして、「プログラムは正常です」と報告し、これで対応を完了してしまうことがあります。
こうした傾向は、私が勤務していた以前の会社でもありましたし、当社の比較的若い社員にも見られます。ですから、ソフトウェア業界の一般的な傾向ではないかと思います。
●こういった傾向を醸成する土壌
どうしてこうした傾向がよくみられるのでしょうか?
これにはソフトウェア開発という業務の特性が関連していると思います。プログラム開発という業務は、設計書通りにプログラムを作成するのが仕事です。プログラムは、設計書通りに動作するかで合否判定をします。納品されて以降、そのプログラムを使って成果を上げるのは、お客様の責任の範疇だという根深い考え方があります。
●ISOの規格要求事項との関係
ソフトウェア開発という業務では、7.2.1製品に関連する要求事項の明確化、7.3.4設計・開発のレビュー、7.3.5設計・開発の検証といった概念が比較的理解し易いです。他方、7.3.6設計・開発の妥当性確認(結局、使い物になるか)という点の理解が難しい。
最終段階での妥当性確認の問題は、要求事項の明確化が十分なされなかった結果として語られることがあります。
また、プログラム開発を、「サービスの提供」ではなく、「製品(生産物)の提供」として捉えるのが通常です。そのため、ソフトウェアの価格は、投入された工数から算出されたり、または実装された機能から算出されたり、または市場の同等製品の価格を参考にして算出されることがほとんどです。
しかし、果たしてこれで説明できるのでしょうか?
●顧客の立場(利益)と妥当性確認
こうしたジレンマの中で、当社では規格の7.3.6の設計・開発の妥当性確認とは何かということを研究してきました。
当社が手順通りソフトウェア製品を開発・提供したとしても、お客様にはそれを使用して、成し遂げたい「真の目的」があったが、それが何らかの要因のため実現できなかったとしたらどう考えたらよいのか?この場合、ソフトウェアとしては問題がなくても、妥当性確認の視点では問題が残ることになります。どうしたら、こうした問題をいくらかでも改善できるか。
●目的から考えるという視点の重要性
何を行なうにも目的があります。よく引用される例ですが、RV車を購入する目的は車自体にあるのではなく、家族と自然の中で過ごすライフスタイルにあります。
この目的を、深く理解すること、またこのための訓練をすることがポイントになります。
たとえば記録、文書の見直しも同様です。記録の目的とはなにか。それは教訓化であり、標準化であり、統計分析のインプットであり、またその他のものかも知れません。何れにしても記録にはその記録の目的があります。不要な記録は作る必要はありません。
プロセスも同様に見直しが可能です。何のために、このプロセスはあるのかということです。
目的から考えることにより、日常的な業務の見直しも可能になります。毎日のそれぞれの業務の目的は何か、この業務の基準となる文書は何かといったことです。
こうした目的から考えるという訓練を積むことで、顧客の利益という視点により具体的に立つことができるのではないかと考えます。
●目的から考えることの当社での実践
当社では、行動基準を明記し、この基準に照らしてどうだったかを、日常的に検証し報告することを義務付けています。この行動基準の中に、「目的から考える」という項目を設定しています。
また日常的業務の全てに、明確な基準・目的を明確にした計画書の作成(システム化)を導入しました。
また、個別作業指示書・計画書のフォーマットに、「目的」「リスク」を明記する欄を追加しました。
全ての会議において、その会議の目的を最初に確認し、意識あわせをし、この目的のために議事を進行するようにしてみました。
●目的から考える視点の今後の可能性
目的から考えるという視点の確立は、当社の品質マネジメントシステムの改善において、大変重要な要素となっています。これによって、プロセスの最適化、効率化が促進されます。他社との差別化も明確にできます。お客様との関係もいっそう深化させることが期待できます。
もともと当社は、ただコンピュータのソフトウェアを開発することが目的の会社ではありません。コンピュータのソフトウェアを開発し、使っていただき、お客様の業務が発展し、お客様の業績の向上につながっていくことがより重要です。目的から考えるという視点の確立は、こうした当社の本来の業務に近づき、実践するキーワードになっています。
以上